残業代問題とその対策

残業代問題の背景

バブル経済崩壊以降、企業のリストラによる経費削減で長時間労働やサービス残業を強いられる労働者が増加しました。厚生労働省は「賃金不払い残業の解消を図るために構ずべき措置等に関する指針」を策定し、労働基準監督署はサービス残業に対する重点監督を行うようになりました。終身雇用制が崩壊し転職があたりまえという雇用状況を背景に、労働者は雇用契約や労働基準法の遵守を会社側に強く要求するようになってきました。サービス残業という言葉が世間に認知され、残業代の請求が法律上の権利として認められているという意識が一般的になりました。在職中は不利益を恐れて行動しなかった労働者も、退職と同時にその権利を行使するようになりました。

インターネットが普及した今日においては、人事労務の知識も一部の専門家だけのものではなくなりました。検索サイトで「残業代」と検索すると、残業代についての法律的な解説だけでなく、具体的な計算方法や内容証明郵便の作成まで詳細に解説したホームペ― ジがいくつも存在します。労働者も自らの権利を守るために情報武装しているのです。

さらにこの問題に拍車をかけているのが、弁護士をはじめとする未払い残業代の請求を商売のネタとしている士業の存在です。「支払われた残業代の一部を成功報酬として・ ・・」という広告はインターネット上だけでなく、電車のなかでも見かけるようになりました。新司法試験による弁護士の増加や過払い金の返還業務が一段落したことにより、未払い残業代の請求が業務として注目されているのです。これが業務として成り立つのは、請求相手が会社であるため回収が見込みやすいこと、また、原則として過去2年間の残業代を請求できることから、比較的まとまった報酬につながる可能性があることが挙げられます。この業務には、弁護士だけでなく司法書士や行政書士等も参入しており、ネット上で激しい顧客獲得競争が繰り広げられている現実を経営者は認識すべきです。

当事務所においては、設立当初より残業代の問題に取り組んでおり、多くの会社で対策を講じた実績があります。また、労使トラブル関連については専門誌への寄稿も定期的に行っており、最新の情報を踏まえた対応を行います。残業代の問題については、事後対応よりも事前対策が会社にとって有利となるので、事前の相談をお勧めいたします。

是正勧告事例

東京労働局における平成22年度の監督指導による割増賃金遡及支払概要

・対象企業数 127件

・対象労働者数 9,524人

・遡及支払額 22億290万円

・1企業で支払額が3000万円を超えたものは8件

1企業で支払額が3000万円を超えた事案(上位4件)

未払い残業代の請求

・内容証明郵便

未払い残業代の請求の多くは、在職中ではなく退職してから行われます。ある日突然、退職した元従業員から会社宛に内容証明郵便が送られてきます。それには、未払い残業代の積算根拠と計算方法、具体的な金額と振込先の口座番号が記載されています。そして最後に、本書面到着後何日以内に振込みなき場合は法的処置をとらせていただきますとか、労働基準監督署へ申告させていただきますなどという内容が書かれています。内容証明郵便それ自体に法的な強制力はないのですが、次の段階として訴訟を利用したり、役所へ申告することが推測されます。

・労働基準監督署への申告

未払い残業代について労働基準監督署に申告が行われた場合には、労働基準監督官は事業場に対する臨検や事業主の呼び出しを行います。そこで労働基準関係法令違反があれば、是正勧告を行い、未払い賃金を支払うように指導されます。

・都道府県労働局長の助言・指導

未払い残業代問題についての申出から、都道府県労働局長の助言・指導が行われる場合がありますが、これには強制力はなく会社は応ずる義務はありません。

・紛争調整委員会によるあっせん

未払い残業代問題についての申出から、紛争調整委員会によるあっせんが提起される場合がありますが、これには強制力はなく、あくまであっせんなので会社は応ずる義務はありません。

・調停

民事調停は、通常、裁判所が選任した2名の調停員により裁判官の意見を踏まえ、当事者同士が解決を目指すものです。審理の回数に制限はありませんが、いつまでも合意ができないときは調停打切りとなります。

・労働審判

調停による解決が図れない場合は、労働審判により解決を図る場合があります。労働審判は、裁判官1名と労働問題に関する専門的知識と経験を有する2名の労働審判員による労働審判委員会で行われます。労働審判は、原則3回以内で終了します。審判の結果に異議がある場合は訴訟へ移行することになります。

・訴訟

請求金額が140万円以下の場合は、簡易裁判所となりますが、それ以外は地方裁判所が第1審となる通常の訴訟です。未払い残業代請求で訴訟になった場合は、通常の未払金に加え、労働基準法に定められた付加金として、通常の未払金と同額の支払いを命ぜられることがあります。

名ばかり管理職

「労働基準法上の監督若しくは管理の地位にある者」は、労働時間、休憩、休日の規定が適用されません。したがって残業代を支給する必要がありません。

管理者とは労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にある者であり、単に部長という役職名や一般社員と比較して賃金水準が多少高いというだけでは該当しません。

悪質な例では、社員全員に管理職の肩書きをつけ、残業代の支給をまぬかれていたというものもあります。

経営者と一体的な立場にあるということですから、労働時間、休憩、休日の規定が適用されない管理者の範囲は、会社の規模にもよりますがかなり限定的なものとなります。

具体的には以下のようなポイントが判断基準となります。

① 出退勤の拘束を受けていないか

② 職務権限とそれに対する責任はふさわしいか

③ 一般社員よりもその地位にふさわしく相当に高い賃金水準であるか

④ スタッフ職の場合、部下をもっていなくてもラインの管理監督者と同等以上に扱われ、法の規制外におかれても保護に欠けることがないか

日本マクドナルドの裁判では、店長を管理職として扱い残業代を支払わないのは違法であるとの判決が命ぜられたのは記憶に新しいところです。

残業の許可制

残業を事前申請とし、上司の許可を得ていないものについては残業代を支給しないというルールを導入します。具体的には、残業を行わなくてはならない理由、具体的な業務内容、必要な時間数等を申請し、上司の許可を得るようにします。

具体的には、就業規則等で「所定労働時間を超えて残業をしなければならない場合は、事前に残業の許可を上司に申請しなければならない」というような定めをします。

これにより許可のない残業について、原則として残業代を支払わなくてよいことになりますが、実態的に黙示の指示によるサービス残業が行われている場合は是正勧告の対象になります。また、労働者から遡って残業代を請求されても仕方ありません。

業務以外で事業場に残っていて、いつまでもタイムカードの打刻をしない社員がいうケースがありますが、残業の許可制と併せてタイムカードの管理も徹底するべきです。

変形労働時間制の活用

変形労働時間制とは、1日、1週の労働時間が法定労働時間を超える場合があっても、一定の期間を平均して週の労働時間を40時間以下にすることにより、法律違反にならないという制度です。

① 1ヶ月単位の変形労働時間制

1ヶ月の一定期間の労働時間が週平均40時間以下になるようにすれば、繁忙期の1日、1週の労働時間はいくら延長してもよいという制度です。

就業規則の定めまたは労使協定の締結が条件ですが、労働基準監督署への届出は必要ありません。

② 1年単位の変形労働時間制

1ヶ月を超え1年以内の一定期間の週の平均労働時間が40時間以内になるようにすれば、1日10時間まで、1週52時間まで労働時間を延長することができる制度です。季節により繁閑の差がある事業場に適しています。導入には労使協定の締結だけでなく、労働基準監督署への届出が必要となります。また、年間休日カレンダーを作成しなくてはなりません。

③ 1週間単位の非定型的労働時間制

労働者が30人未満の商店、旅館、飲食店において、1週の労働時間が40時間以内であれば、1日の労働時間を10時間まで延長することができる制度です。導入には労使協定の締結だけでなく、労働基準監督署への届出が必要となります。

みなし労働時間制の活用

みなし労働時間制は、実際にその日に何時間働いたかではなく、あらかじめ定められた時間働いたものとみなすというものです。みなし労働時間は所定労働時間と同一でもよいし、「通常必要とされる時間」と定めることもできます。たとえば、所定労働時間が8時間の場合には、実際に6時間で仕事が終わったとしても10時間かかったとしても、通常の8時間働いたものとみなされます。「通常必要とされる時間」を所定労働時間より長く定める場合には、労使協定を締結しなければなりません。所定労働時間が8時間の場合で、「通常必要とされる時間」を10時間と定める場合には、固定的に2時間分の残業代が発生することになります。

① 事業場外労働のみなし労働時間制

外回りの営業等、会社が正確な労働時間を把握できない場合、実際に働いた時間に拘わりなく、あらかじめ定めた時間働いたものとみなすものです。導入するには、就業規則または労使協定による定めが必要であり、1日単位でみなし労働時間を定めなくてはなりません。みなし労働時間制は、いちいち時間管理をおこなわないで済む便利な制度ですが、管理監督者が同行する場合や携帯電話などにより随時指示を受けるような場合には、適用することができません。

② 専門業務型裁量労働制

導入可能な専門業務として19の業種が指定されています。これらは一般的な労働時間の管理では効率的な業務ができないという観点より、業務の遂行方法や時間配分を労働者の裁量に任せるというものです。この場合のみなし労働時間は、1日単位で定めなくてはなりません。導入には、労使協定を締結し、労働基準監督署への届出が必要です。

③ 企画業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制と同じ仕組みですが、本社(事業運営上の重要な決定が行われる事業場)の企画、立案、調査、分析の業務がその対象となります。導入には、労使委員会を設置し、対象業務、対象従業員の範囲、みなし労働時間等の事項を委員の5分の4以上で決議し、労働基準監督署への届出ることが必要です。また、制度導入後も定期的(6ヶ月以内ごとに一回)に定められた事項を労働基準監督署へ報告しなければなりません。

フレックスタイム制の活用

始業・終業の時刻を従業員に決定させる制度で、従業員が自ら時間管理を行うことにより、主体的に業務に取り組むことができます。

フレックスタイム制を導入するには、始業及び終業時刻の決定を労働者に委ねる旨を定め、以下の必要事項を労使協定に定めなくてはなりません。労働基準監督署への届出は必要ありません。

① 対象者の範囲

② 清算期間(1ヶ月以内)

③ 清算期間における総所定労働時間

④ 標準となる1日の労働時間

⑤ コアタイム及びフレキシブルタイムを定める場合はその開始・終了時刻

フレックスタイム制を導入すれば、変形労働時間制の導入や36協定を締結しなくても、1日8時間を超えて労働しても問題はありません。一定期間に働く時間を定める場合でも、原則として1週間につき労働時間が40時間を超える場合には36協定の締結と割増賃金の支払いをしないといけません。

年次有給休暇の計画的付与

年次有給休暇を計画的に付与することにより、繁忙期を避け計画的に業務が遂行できるようになり、残業が減るというケースがあります。また、一部の従業員が休暇を取ることにより、他の従業員にそのしわ寄せがくるという事態も避けることができます。年次有給休暇の計画的付与は、有効な残業対策と考えられます。

導入するには、労使協定を締結しなければなりません。また、各人の年次有給休暇の5日を超える日数のみが対象となります。

計画的付与の方法としては、以下のようなものが考えられます。

① 事業場全体の休業による一斉付与

② 班別の交代制付与

③ 年次有給休暇計画に基く個人的付与

この計画付与による場合は、労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権はともに行使できないとされています。

定額残業手当の導入

定額残業手当は、通常の賃金部分と時間外・深夜割増賃金部分を明確に区分し、過不足が計算できるようにしなければなりません。定額残業手当よりも実際の残業時間のほうが多いようであれば、その分の残業手当を別途支給しなければなりません。

導入するには、賃金規程や雇用契約書に賃金の内訳や定額残業手当の算出方法を規定しなければなりません。途中から導入する場合には、契約違反や不利益変更にならないよう注意が必要です。

定額残業手当を導入していても正しく運用されていなかったり、制度そのものが間違っているケースが多くみられます。

振替休日の活用

業務の都合で休日に出勤してもらった場合には、35パーセントの割増賃金が発生します。しかし、休日振替を行えば、基本的に賃金の変更はないので割増賃金は発生しません。

休日振替を行うには、次の2つの要件が必要です。

① 就業規則に振替休日の規定を設ける

② 振替日を指定する

休日振替は、同一週内で行わないと、結果的に週40時間を超え残業代が発生するケースがあるので、注意が必要です。

休日振替に対して代休という制度がありますが、これは休日出勤があった場合に代わりの休日を与えるもので、休日の割増賃金は発生します。事前に振替日を指定するのではなく、事後に休日を指定し与えるものです。

残業代対策についてのご相談は
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