是正勧告対応・是正報告書作成

是正勧告の対象となる事項

法定帳簿 出勤簿(タイムカード) 残業代の計算 みなし労働時間制
休憩時間 三六協定 年次有給休暇 労働条件の明示 就業規則
減給の制裁 最低賃金 解雇予告 定期健康診断 安全衛生管理

法定帳簿

法定帳簿とは、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿(タイムカード)のことで、事業場ごとに備え付けておく義務があります。これらの書類は、労働条件や賃金の計算に密接に関わってくるものなので、作成されていない場合はもちろん、記載事項の不備についても是正勧告の対象となります。また、3年間の保存義務は、退職してからですので注意が必要です。

【労働者名簿の記載事項】
1.労働者の氏名
2.生年月日
3. 履歴
4. 性別
5.住所
6.従事する業務の種類(常時使用する労働者の数が30人未満の場合は、記載する必要はありません)
7. 雇入れ年月日
8. 解雇・退職または死亡の年月日およびその事由

【賃金台帳の記載事項】
1.労働者の氏名
2. 性別
3. 賃金の計算期間
4. 労働日数
5. 労働時間数
6.時間外労働等の残業をした場合は時間数
7.基本給や手当などの賃金の種類ごとの額
8.賃金の一部を控除する場合はその額

出勤簿(タイムカード)

労働時間管理は、出勤簿(タイムカード)により行われますが、出勤した日のみ印鑑でついたような出勤簿では、適正な労働時間管理ができているとはいえず是正勧告の対象となります。始業及び終業時刻の記入が必要です。始業及び終業時刻については、使用者が自ら確認するか、タイムカード、ICカード等による客観的な記録によることが必要であり、自己申告制によるのはやむを得ない場合に限られるので注意が必要です。使用者には始業・終業時刻を確認し記録する義務があるので、最近の調査ではこのあたりが厳格に問われる傾向にあります。

タイムカードを導入している事業場においては、始業及び終業時刻の記録が、残業代の計算に適正に反映されているかのチェックを受けます。残業代や休日出勤の割増を払いたくないためにわざとタイムカードをなくしてしまった事業場がありますが、労働時間管理は使用者の義務であり、間違いなく指摘を受けます。使用者には始業・終業時刻を確認し記録する義務があるからです。これについては、厚生労働省から出された通達「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」に具体的に記されています。

未払残業代の請求で訴訟になった場合、労働時間を証明するものとして、タイムカードだけでなく業務日報やメモ書き程度のものが認められるケースもあります。実際には残業を行っていないのに、残業代を請求してくることもあり得ないことではありません。

残業代の計算

時間外手当の計算方法で、基礎となる時間単価の算出方法について誤っている場合、是正勧告の対象となります。各種手当を含まず基本給のみを算出の基礎としている場合等です。以下の手当については、割増の基礎から除外することが可能ですが、名称にかかわらず、その実質的な内容によって判断されるので注意が必要です。

1.家族手当
2.通勤手当
3.別居手当
4.子女教育手当
5.住宅手当(通達で一部含む場合あり)
6.臨時に支払われた賃金
7.1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

時間外割増の計算の端数処理においては、労働者の不利になるような端数処理は指摘を受けます。以下の端数処理は認められています。

1.1ヶ月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。

2.1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。
3.1ヶ月における時間外労働、休日労働、深夜労働のそれぞれの割増賃金の総額に、円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。
実際に長時間の残業を行わせているにも関わらず、1ヶ月に残業代は20時間までしか支給しない等の上限を設けているような場合は是正勧告の対象となります。

みなし労働時間制

事業場外のみなし労働時間制は、「所定労働時間」勤務したとみなされ、いちいち時間管理を行わないで済む便利な制度ですが、管理監督者が同行する場合や携帯電話などにより随時指示を受けるような場合には、適用されません。
タイムカードがないのをよいことに、意図的にみなしを装って労働時間管理を行わず、残業代を支給しない会社に対しては、労働基準監督官のヒアリングや実態調査から是正を命じられることがあります。

専門業務型裁量労働時間制と企画業務型裁量労働時間制の導入には労使協定の締結や労使委員会の設置、苦情の処理に関する措置等を行わなければなりませんが、それらの要件を満たしていない場合には是正勧告の対象となります。

専門業務型裁量労働時間制を採用できるのは、以下の19種類の業務です。

①新商品開発、技術研究等 ②情報処理システムの分析、設計 ③新聞・出版業、放送業の記事の取材、編集 ④デザイナー ⑤放送業等のプロデューサー、ディレクター ⑥コピーライター ⑦システムコンサルタント ⑧インテリアコーディネーター ⑨ゲームソフト創作 ⑩証券アナリスト ⑪金融商品の開発 ⑫大学教授研究 ⑬公認会計士 ⑭弁護士 ⑮建築士 ⑯不動産鑑定士 ⑰弁理士 ⑱税理士 ⑲中小企業診断士

企画業務型裁量労働時間制を採用する場合、事業場として以下の4要件をすべて満たした業務であることが必要です。

1.業務が所属する事業場の事業の運営に関するものである
2.企画、立案、調査、分析の業務
3.業務の遂行を大幅に労働者の裁量に委ねる必要が、「業務の性質に照らして客観的に判断される」業務
4.企画、立案、調査、分析という相互に関連する作業を、いつどのように行うか等広範な裁量が労働者に認められている業務

休憩時間

労働基準法では、休憩時間について、労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は60分の休憩を、労働時間の途中で与えなければならないと定められています。従業員の同意があったとしても、休憩時間を与えなかったり、法定の時間よりも短い時間の定めをしている場合には是正勧告の対象になります。

休憩時間は、労働時間の途中で与えなければならないので、始業直後に与えたり終業直前に与えることは違法となります。

休憩時間は、原則として一斉に与えなくてはなりません。この一斉付与の原則は、運送業、飲食店、銀行、病院等においては、業務の性質上この原則は適用されません。それ以外の業種でも、労使協定を締結しておけばこの原則は適用されません。

休憩時間は労働時間ではありません。原則として労働者の事由に使用させなければなりませんが、合理的な理由が存在し、労働者の事由を大きく妨げない範囲で、一定の規制を設けることは違法とはなりません。例えば、休憩時間中の外出について許可を受けさせる等です。

三六協定

残業をさせるには労使協定(三六協定)を結び、時間外労働をさせる必要のある具体的事由や延長することができる時間を労働基準監督署へ届け出ることが必要です。この届出をしていないと、労働者に残業をさせることはできません。もし、届出をせずに法定労働時間を超えて働かせると、是正勧告の対象になります。労使協定は締結したけれども届出をしていないという場合も同様です。

また、三六協定の届出を行っているからといって、無制限に時間外労働をさせられるわけではありません。協定届に延長することができる時間を1日、1ヶ月、1年について記入し、その時間内でということになります。その限度を超えて時間外労働をさせている場合も是正勧告の対象となります。

三六協定で定めれば、いくらでも労働時間の延長が可能になるわけではありません。厚生労働大臣は、労使協定で定めることができる延長の限度に関する基準を定めています。これによると、一般の労働者においては1ヶ月45時間、1年360時間となっています。

特別条項付き36協定を締結すれば、一定期間についての延長時間は限度時間を超えて労働させることができます。特別条項付き36協定を締結するためには、限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない「特別の事情」が必要となります。また、1日を超え3ヶ月以内の一定期間について、36協定で定める労働時間の延長の限度を超えて特別に労働時間を延長することができるものとし、この回数については、特定の労働者について特別条項付き36協定の適用が1年のうち半分を超えないことが必要です。

三六協定の届出は、協定の有効期間の前に労働基準監督署に届け出なくてはなりません。うっかりしていて届出を期間の開始後にした場合、是正勧告にはならないでしょうが、指導はされるでしょうから注意が必要です。

年次有給休暇

年次有給休暇については、付与日数が法定以上となっていない場合は是正勧告の対象となります。週30時間未満でかつ週4日以下の労働日のパートタイマーにも、労働日数に応じて有給休暇が比例付与されるので注意が必要です。

労働基準法では、年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額等の不利益な取り扱いをしてはならないと定められています。年次有給休暇は、労働者からの請求に基づき付与するものですが、年次有給休暇がまったく取得されていないようなケースでは、状況によっては是正勧告の対象となる場合があります。また、残日数が管理されていない場合も同様です。

年次有給休暇のうち5日を超える部分について、あらかじめ労使協定で休暇を与える時期を定め、当該休暇を取得させる制度があります。これを計画的付与制度といいますが、この制度を利用している場合、労使協定が締結されていなければ是正勧告の対象となります。

年次有給休暇の賃金の支払いについては、以下の方法によります。

1.平均賃金
2.通常の賃金
3.標準報酬日額(労使協定要)

労働条件の明示

従業員を採用した場合は、以下の労働条件を書面により明示しなければなりません。

1.契約期間
2.就業の場所
3.従事すべき業務の内容
4.始業及び終業時間、休憩時間、所定時間外労働の有無
5.休日
6.休暇
7.賃金
8.退職に関する事項(解雇事由を含む)
※パートタイマーについては、昇給・賞与・退職金の有無も必要

これらが明示されていない労働契約書や雇入通知書は、是正勧告の対象となります。

就業規則

常時10人以上の労働者が働いている事業場においては、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出なくてはなりません。届出がされていない場合は是正勧告の対象となります。この10人の中にはパートやアルバイト等の非正規従業員も含まれますので注意が必要です。

就業規則は、書面による交付、常時事業場の見やすい場所への掲示または備え付け等によって、労働者に周知しなければなりません。

就業規則に必ず定めなければならない事項として、以下のものがあります。

(絶対的必要記載事項)
1.始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交代制の場合には就業時転換に関する事項
2.賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
3.退職に関する事項(解雇事由を含む)

制度を置く場合には就業規則に定めなければならない事項として、以下のものがあります。

(相対的必要記載事項)
1.退職手当について、適用される労働者の範囲、決定、計算及び支払の方法並びに支払の時期に関する事項
2.臨時の賃金及び最低賃金額に関する事項
3.食費、作業用品その他の労働者の負担に関する事項
4.安全及び衛生に関する事項
5.職業訓練に関する事項
6.災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
7.表彰・制裁の定めについてその種類・程度に関する事項
8.その他その事業場の全労働者に適用される定めに関する事項

減給の制裁

減給の制裁について、労働基準法は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならないと定めています。

もし、これ以上に減給を行うのであれば、その減給部分は次の賃金支払期に行わなくてはなりません。これに違反し、不当な控除が行われている場合は是正勧告の対象となります。

賃金から控除できるものは、所得税、住民税、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料等の税金や社会・労働保険料です。財形貯蓄や組合費、積立金等の控除については労使協定の締結が必要です。

解雇予告

従業員を解雇する場合には、原則として少なくとも30日前に解雇の予告をするか、解雇予告手当(30日分の平均賃金)を支払わなくてはなりません。つまり、30日前に解雇予告を行った場合には、解雇予告手当は必要ありません。解雇予告を行った日から解雇の日までの日数が30日未満の場合は、その日数に応じた解雇予告手当を支払えば問題ありません。解雇予告除外認定を受けた場合を除き、これらを行っていない場合は是正勧告の対象となります。

また、解雇予告手当は平均賃金の30日分以上ですが、この計算方法を間違えて是正指導を受ける場合もあります。

労働基準監督署から解雇予告除外認定を受けることにより、解雇予告または解雇予告手当の支払いなしに解雇できる場合があります。解雇予告の除外理由としては、天災事変等やむを得ない事由で事業継続が不可能になった場合や窃盗や横領等を行い即時に解雇されてもやむを得ない事由がある場合です。

解雇予告は口頭でも成立しますが、金銭に関わるところでもあり、言った言わないの問題を避けるためにも書面で行うべきです。

定期健康診断

事業主は使用する従業員の数にかかわらず定期健康診断を実施し、その結果に基づき健康診断個人票を作成し、5年間保存しなければならないと労働安全衛生法に定められています。健康診断が年に1回行われていない場合は是正勧告の対象となります。

常時使用する労働者を雇入れる場合は、雇入れ時健康診断の実施が必要です。

この健康診断の対象者は、常時使用する労働者となっていますが、正社員以外のパート・アルバイト等の短時間労働者でも、以下の基準に該当する場合は対象になります。

・期間の定めのない雇用契約により使用されていること
・1週間の労働時間が、同じ事業場で、同種の業務に従事している通常の従業員の4分の3以上であること

ただし、この要件を満たさない場合でも、そのパートタイマーが同じ事業場で同種の業務に従事している通常の従業員の1週間の所定労働時間数の概ね2分の1以上であれば、健康診断を実施するのが望ましいとされています。

安全衛生管理

労働安全衛生法には、常時使用する労働者数と業種により総括安全衛生責任者、衛生管理者、安全管理者を選任し、同様に安全委員会、衛生委員会を設置しなければならないことが定められています。これらは、労働災害や健康障害を防止するために選任または設置が義務付けられているもので、特定の業種やその規模によりその条件が詳細に定められています。

また、常時50人以上の労働者を使用する事業場においては、産業医、衛生管理者の選任・産業医、衛生管理者の選任報告の届出・衛生委員会を開催しなければならないと定められています。これらを行っていない場合は是正勧告の対象となります。

産業医は、以下の職務を行います。

1.健康診断、面接指導等の実施およびその結果にもとづく労働者の健康を保持するための措置、作業環境の維持管理、作業の管理等労働者の健康管理に関すること
2.健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること
3.労働衛生教育に関すること
4.労働者の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置に関すること
5.少なくとも毎月1回作業場を巡視し、労働者の健康障害を防ぐために必要な措置を講じること
6.健康管理に必要な事柄につき、事業者に勧告すること

衛生委員会は、毎月1回以上開催しなくてはならず、その内容については議事録として労働者に周知しなければなりません。

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